[2008/08/08]【スポーツの力】オリンピック教育<下>
参加することに意義がある。
近代五輪の創始者、ピエールド・クーベルタン(1863-1937)の言葉として、よく引用される。最初は、ある司教の説教の言葉をかりて発せられたものだという。
この前の日曜日、セントポール寺院のミサでペンシルベニア司教は、選手の栄光をたたえながら次のような適切な言葉でオリンピックの大切なことを思い起こさせてくれた。「オリンピアードで重要なことは勝つことではなく参加することである」と。紳士諸君、この説得力ある言葉を心にとどめておこう。これは平穏で健全な哲学の基盤を作り上げ、あらゆる面につながるものである。
人生で重要なことは勝利ではなく努力することである。重要なことは勝ったことではなく、よく戦ったということである。(1903年ロンドン五輪の閉会式)
クーベルタンは教育学者。結果以上に過程の大切さを説いた。
フランス人のクーベルタンは、イギリスのパブリックスクールで青少年の教育にスポーツが活用されていることに注目した。当時、ギリシア・オリンピア遺跡の発掘によって古代五輪への関心も高まっていた。近代五輪のアイデアは、そうした中で生まれた。
クーベルタンが唱えたオリンピックとは、スポーツを通じた教育運動、平和運動であり、その社会哲学を「オリンピズム」と呼ぶ。オリンピズムの普及活動が「オリンピック・ムーブメント」であり、その代表的な活動としてオリンピック競技大会の開催が位置付けられている。
五輪の意義を教える「オリンピック教育」は、オリンピック・ムーブメントの中では五輪大会の開催と並ぶ重要性を持つとされる。日本オリンピック委員会(JOC)も、オリンピック・ムーブメントの推進を目的とした事業を、五輪への選手派遣と並ぶ活動の2本柱としている。→http://www.joc.or.jp/aboutjoc/mission/
オリンピックデー(6月23日)のイベントなど啓発活動が行われているが、競技力向上の面に比べて知られておらず、さらなる教育活動の充実が課題。2016年五輪の東京招致を目指し、東京都では小中高でオリンピック教育に取り組む計画が進んでいるという。また、国際オリンピックアカデミー(IOA)のもと、オリンピック教育の研究と推進を目指す日本オリンピックアカデミー(JOA)が活動している。→http://www.olympic-academy.jp/
東京大会でも公衆マナーの向上呼び掛け富山県立図書館には、1964年東京大会のオリンピック教育の教材『オリンピック読本(高等学校・青年学級向け)』(文部省、1963年)が所蔵されている。五輪の理念や歴史の説明のほか、「オリンピックを迎える国民のあり方」という章があり、「公衆道徳高揚」への諸注意なども書かれている。「日本人のプライドを保つために姿勢や歩き方を正しくすることも必要である。もっと胸を張って堂々と歩くようでありたい」との記述もあり、アジア初の開催に向けた行政の緊張感がうかがえる。
家族団らん 大人も涙『第18回オリンピック東京大会記念文集』(富山県教育委員会、1964年)には、県内の小中高校生が東京五輪の思い出を書いた作文が収録されている。
見学団の一員としてサッカー観戦した時に聞いたガーナ選手の歌声の響き、聖火ランナーをやり遂げた達成感、閉会式の入場行進を見て感じた平和の尊さ―。心に残ったことをそれぞれに記している。「それにしても日本はメダル、メダルと言い過ぎたように思う。そのため、かえって選手に重荷を感じさせた面もあった」と論じた高校生もいる。
小学生の作文には、家族そろってテレビの前に集まり、日本選手を応援する様子を描いたものが数多くある。女子バレーの“東洋の魔女”、マラソン3位の円谷選手、負傷をおして体操男子団体金メダルに貢献した小野選手などの活躍に一喜一憂している。一緒にテレビを見ていた父や母といった大人が感極まって涙する姿が印象的だったのだろう、何人もの児童が記している。
北京五輪は24日まで。
■主要参考文献
・「オリンピックのすべて」(ジム・パリー、ヴァシル・ギルギノフ著、舛本直文訳 大修館書店、2008年)
・「21世紀オリンピック豆事典」(日本オリンピックアカデミー、楽、2004年)
・「オリンピック物語」(結城和香子、中公新書ラクレ、2004年)